革新的設計生産技術とは

Innovative Design/Manufacturing Technologies -SIP 革新的設計生産技術-

デライトなものづくりで日本を再興

 本研究開発は「総合科学技術・イノベーション会議」が、「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」に選定した11課題のうちの一つで、デライトなものづくりを実現する技術や仕組みを開発することで、わが国の産業を活性化し、競争力のある高付加価値な製品や新市場を創出することを目標としたものです。

 こうした考えのもと、「超上流デライト設計手法」の研究開発及び「革新的生産製造技術」の研究開発とそれらの実践、普及のために、それぞれ特徴ある研究開発を実施しています。

本プログラムの背景

 我が国では、高品質・高性能な材料・部品や製造プロセス技術、さらにはそれらを支える工作機械等の加工技術などにおいて高い国際競争力を発揮し、ものづくり産業が国内雇用や貿易立国を支える基幹産業として発展してきました。しかし近年、国際競争の激化による製造現場の海外流出や新興国の躍進、さらには製品のコモディティ化などの要因を背景に、1982年から2008年までの27年間連続で維持していた工作機械生産額世界トップからの陥落や、世界市場で5割以上のシェアを誇った半導体産業の低迷など、我が国のものづくり産業の国際競争力が失われつつあるとの懸念があります。

 現状の我が国のものづくり産業では、材料・部品や工作機械等については依然高い技術力を維持していますが、より多くの利益が得られる最終製品やサービスの市場では苦戦を強いられています。また、我が国の強みである、部品の製造に見られるような多様なニーズに対応したきめ細かなものづくりも、近年新興国の追い上げが激しく、危機感が募りつつあります。

本プログラムの概要

 この激しい国際競争に打ち勝つためには、従来にない付加価値の高い製品を生み出す、デライトなものづくりが必要です。本プログラムでは、企業・個人の多様なニーズに応える、従来にない素材や機能をもつ製品を実現する革新的な生産・製造技術を中心とした革新的ものづくり技術を開発、実用化し、地方の中堅・中小企業がそれを活用できる場・仕組みの構築を行います。新しい技術の体験を通じて得られる新たな発想を起点として、高付加価値製品を創出し、日本のものづくりの産業競争力強化(グローバルトップを獲得)や地方創生(地域発のイノベーション実現)をめざします。

 また、本プログラムでは、革新的ものづくり技術を確立し、それにより以下の技術的・産業的・社会的なアウトカム目標を達成することをめざします。

技術的目標
 高付加価値な製品を創出するための新しいものづくり技術を確立することを目標とします。なお、様々な地域や企業において先端的に成果であるツールや技術を実証することで、新たな課題や価値を抽出し改良を行うなど、効果的な研究開発を行います。
産業的目標
 先端的なツール/技術およびそれの活用の場も含めた高付加価値製品創生の仕組み確立により、グローバルトップを獲得できる新市場の創出をめざすとともに、開発された技術の持続的な利用促進をめざします。
社会的目標
 地域の企業・大学・公的研究開発機関等の優れた技術を実用化に繋げることで新たな価値創造を加速し、日本の産業競争力を強化し、かつ地域活性化(雇用創出等)に資することを目標とします。

デライトなものづくりの実現に向けて

 革新的設計生産技術では、デライトなものづくりの実現に向けて、(A)超上流デライト設計手法の研究開発、(B)革新的生産・製造技術に取り組みます。(図1)なお、研究開発項目(A)及び研究開発項目(B)は相互に連携するものであり、両項目を一体として実施することも可能であり、(A)単独、(B)単独、(A)と(B)の両方を含む研究テーマをそれぞれ複数設定し、研究開発を進めています。

図1 デライトなものづくりに向けた研究開発
図1 デライトなものづくりに向けた研究開発

(A)超上流デライト設計手法の研究開発

 種々のデータや試行から抽出されたニーズ・価値・性能・デライト(喜び品質、満足等)をベンチマークとして製品やシステム、サービス等の初期機能設計を行い、生産・製造条件、市場反応、情報・知識・計測等に基づく柔軟な修正機能をもつ、革新的な超上流設計技術を開発します。また、製品目標からバックキャストし、材料・部品と製品・システム・サービスそれぞれのプロセス間のコミュニケーションを通じて、製品やサービスの使われ方や環境・外乱の影響のモデルを俯瞰し、逆問題的設計や複雑事象のシミュレーションとも連携して、低コスト・高品質全体設計を可能とする革新的システム設計技術を開発します。ここで、「超上流」とは、より上流の設計プロセスで価値探索とものづくりプロセス全体の最適化を考慮することを意味します。

 ニーズ・価値・デライトといった従来のものづくりではあまり考慮できていなかった領域は、本領域が企業の競争優位性をもたらす武器、すなわち「競争領域」であり、共通技術化して広く普及させることが難しい点が多いことから、プログラムの前半で研究開発を中止し、共同研究やコンソーシアム等の形で企業への展開を進めています。一方、最適化やシミュレーションなど企業にとって「協調領域」の技術については、(B)革新的生産・製造技術と連携可能な設計支援技術として、継続して研究開発を進めています。

 

(B)革新的生産・製造技術

 複雑で自由な形状の形成や多様な材料組成の選択、従来にない高品質、低コスト化、新しい機能の発現を可能とする生産・製造の新技術、複合化技術を開発します。また、多様なアイデアを迅速に、どこでも誰でも試作して評価できる生産・製造技術及びシステム化技術を開発します。

 プログラムの前半は、幅広い加工技術に取り組みましたが、後半では、特に対象となる事業領域として、発展性の高いヘルスケア産業と日本の強みであり事業規模が大きい自動車などの先端産業を中心として、この領域への貢献が大きく期待される3D造形技術と表面処理などの機能性付加技術を中心に研究開発を進めています。ここでは、社会のさまざまなニーズにきめ細やかに対応することが望まれるSociety5.0時代のものづくりへの貢献として、主要な工業材料全てで高度な3D造形を可能とする技術開発を中心に行い、サイバー空間での設計の自由度を飛躍的に向上することをめざしています。(図2)

図2 革新的生産・製造技術の技術マップ
図2 革新的生産・製造技術の技術マップ

 さらにこれらの成果が広く利用されるように、特に研究開発成果であるツール/技術の出口の形態を3つに定め、それぞれの形態に合ったテーマの進め方をしています。

販売サービス型
 実用性、汎用性が高いツール/技術は、企業がソフトウェア販売、装置販売、ツール/技術を活用したサービス提供を実施します。
活用の場構築型
 地域の中堅・中小企業に特に有用なツール/技術は、産総研や地域の公設試に設ける活用の場に設置し開放。既に同様のサービスを提供している公設試に置くことで、SIP終了後のサービス継続性をめざします。(図3)
技術指導・交流型
 ツール/技術を利用する企業ごとにカスタマイズが必要なツール/技術は、コンソーシアム等を設置し、技術指導や交流を行います。これにより企業の製品化をめざします。
図3 ツール/技術の活用の場
図3 ツール/技術の活用の場

 このように、基礎研究から出口である実用化・事業化までを見据えて一気通貫で研究開発を推進し、プロジェクト終了後に産業界の競争力強化、地方創生に貢献できる成果を創出します。

イノベーションスタイルの実証・実践に向けて

 イノベーションを実現するためには、ユーザ参加型の新しいイノベーションを実現する仕組み、「イノベーションスタイル」が必要です。これは、研究開発成果を実際のものづくりへ適用し、研究開発成果を使用した企業や個人ユーザの意見を得て新たな問題点を洗い出し、研究開発に迅速にフィードバックする、一連の試行錯誤を繰り返す仕組みです。これにより、“よりよい成果へブラッシュアップする”ことが可能となるほか、“当初、潜在的で気づかなかったより高付加価値なニーズの発掘を行う”といったことも期待できます。

 ここでは、本プロジェクトで進めた主要なテーマの研究プロセスや成功要因、課題をイノベーションスタイルとしてドキュメントに纏め、公開することを進めています。技術の実用化をめざす大学等の研究機関や、産学官連携で高付加価値製品開発を目指す際の地方の中堅・中小企業に、研究開発を進める上での道しるべとして活用いただくことをめざしています。H30年度に主要テーマの研究プロセス、そこで共通する成功要因や課題のエッセンスを公開予定です。

SIPものづくりネットワークによる成果の普及展開

 SIP革新的設計生産の5年間の集大成として、国内・海外の企業が、SIP成果にワンストップでアクセス可能なSIPものづくりネットワークの構築を進めています。ワンストップ窓口であるWEBポータル(本ポータル)を基点に、成果であるツール/技術、活用の場の情報を集約するとともに、実際に興味を持った方がアクセスする方法もわかるようになっており、高付加価値製品の創出をめざす産業界に、強いツールや技術を提供する窓口としてSIP終了後も継続して運用していくことをめざしています。(図4)

図4 SIPものづくりネットワークの概念図
図4 SIPものづくりネットワークの概念図